2024年買ってよかったもの

母が死んだ日のこと
特別熱い真夏の話。
母が死んだので急ぎ帰省した。
という一文を書きたかっただけの話です。

3年に1回ぐらいLINEのやりとりをする父から「母死んでた」と連絡があり、
「今?」と返信しつつ新幹線の予約をした。
私は休職中で時間とクレカの枠だけは有り余っていたのだ。
警察からも電話があり、県警の捜査一課だというので「ハコヅメじゃん!」と興奮していたら「すみません、盗犯なんです。今日はただの当番で……」と申し訳なさそうにされた。

父も同じように「ハコヅメだ!!!」と興奮していろいろ聞いたらしく、死んでる母そっちのけの態度に警察官は「あの家族仲悪いんですかね」と警察署の廊下で首をかしげていたらしい。聞こえないところで言えばいいのに~。
それでもハコヅメはよいマンガです。
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母は父の出張中に亡くなり、これは後でわかったことだが7日間熟成されていた。
冷房をケチっていたので大変なことにはなっていたが、虫コナーズを窓につるしていたおかげで本当に虫コナーズだったらしく、想像よりは大変なことになっていなかった。
父が帰ってきて母の遺体を見つけたとき「ものすごく死んでる」だったらしい。

父はとりあえず消防署に連絡した。消防署は「心臓マッサージをしてください」と言う。「死んでるのに? ものすごく死んでるんですよ」と訴えてみたが消防団員の人には全然伝わらず、ややゾンビみたいな母に父は心臓マッサージをしたらしい。父にはコミュニケーション能力があんまりない。私と同じくらいだ。

私は母が発見された翌日の夕方に実家にたどり着いた。父は疲弊していた。
当たり前である。警察が母の遺体を預かっていて父も事情聴取されたのでその日は寝てないのだ。私も実家に帰るときは不眠がひどくなるので寝ていない。目の下にクマがある親子がそろった。

家に着いてお茶を飲んで一息すると、直葬にしたので警察署から直接焼き場に運んでもらうこと、焼く前に顔を見るオプションは1万円であることを父から教わった。オプションは15秒ぐらい悩んでつけてもらうことにした。5年くらい顔を見てないし。
そういえば昔、力士が部屋の仲間にリンチされた事件があった。

母は死体の写真があるというので週刊誌を買い求め、結局写真をもとにしたイラストしか掲載されていなかったので露骨にがっかりしていた。
母も私も死体が好きなのかもしれない。私は母が好きではないが死体でつながっていた。

死んだタイプの母が発見されてから二日目、焼き場は山の中にあった。
鹿も通わぬ田舎である。建物だけは死ぬほどきれいだった。
入り口横の小部屋に入り棺の中に入った母の顔をみるとなるほどものすごく死んでいた。九相図の2枚目くらいだった。クマがあった。クマ家族である。眼球が乾燥して落ち窪んでいた。
父に写真を撮ってもいいか聞くと「なんでだめなのか」という顔をするので、かなり撮った。焼き場の雰囲気。棺の配置。母の顔。母の鼻の孔。母の毛穴。汁。めちゃくちゃぼーっとしててカメラを向けられてることにも気づいていない父。何か役に立つかもしれない。
ひっくり返して死斑を観察し検視ごっこをしていたら葬儀会社のひとが入ってきて「この花を飾ってあげてください」という。ひっくり返しているのを普通の人に見られてしまって恥ずかしかった。死後硬直とけてるから死斑見ても意味ないよ!

母を仰向けに戻し、父と一緒に花を投げ入れていく。サービスいいなあ。人の死に花を添えるのは6万年前のネアンデルタール人が最古だったような気がする。私には意味がよくわからないがネアンデルタール人はどう考えていたのだろうか。
父は棺を指して「一番値段が安い奴だけど本物の木だよ」という。ほんとうだ……集成材じゃない……お! 値段以上。たぶん材もゴムとかパイン材とかじゃない。よくわからないけど硬くてよさそうな木材であった。燃え残りが少ない、火葬に適した木なのかもしれない。

母とお別れをすませ、火葬をお願いする。焼き時間は2時間ぐらいなので父と二人で本を読んで過ごす。
父はえっちななろう小説を、私はアン・クリーヴスの『哀惜』を読んでいた。
『哀惜』は長年語り手の刑事が長年会っていなかった父親の葬儀のシーンから始まる。ただの偶然だが感情移入しやすかった。『哀惜』読んでるときたまたま疎遠な母親が死んだんですよ! いいでしょ。
火葬の待合室は共同のものがあった。売店がありトイレがありテレビがありファミレス席がある。大いにくつろぎながら焼きあがるのを待っていたが、途中でほかの遺族とすれ違い、半袖短パンの父と喪服は来ているけど髪を魚の骨のクリップでまとめている私を二度見していた。父は私にも喪服をやめさせようとしたけど「縁起物だし東京から6時間かけて持ってきたんだから着せてよ!」と反発して一応喪服を着たが、ちょっとした冗談で骨のクリップを頭に挟んでおいたのだ。おしゃれかなと思って。TPOである。

やがては母は焼き上がり火葬場の人が恭しく主な骨を説明してくれた。
大腿骨。肩甲骨。
のどぼとけの骨。指先の骨は残っていることが少ないらしい。
私は馬鹿面をして写真を撮った。たぶん火葬場の人はビビっていた。だって何かの役に立つかもしれないし。
不要なところはすべて廃棄してもらったら犬の骨壺より小さくなってしまった。

タクシーを飛ばして家に帰り、近所のまりお流でとんこつラーメンを食べた。
母の部屋のにおいととんこつラーメンは同じにおいがした。

葬儀をすっ飛ばしたせいで母の友人に個別に連絡したり食事会を設けたりしないといけなくなったので葬儀はやったほうがいいです。

最後に
虫コナーズを買ってください。
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